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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)158号 判決 1983年1月20日

上告人

三浦士郎

右訴訟代理人

村井禄楼

清木尚芳

株式会社宇品造船所訴訟承継人

更生会社宇品造船所管財人

被上告人

加藤公敏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村井禄楼、同清木尚芳の上告理由第一点、第二点、第四点及び第五点について

所論の各点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点について

原審の適法に確定した事実関係によれば、本件曳船の原判示瑕疵は比較的軽微であるのに対して、右瑕疵の修補には著しく過分の費用を要するものということができるから、民法六三四条一項但書の法意に照らし、上告人は本件曳船の右瑕疵の修補に代えて所論改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできないと解するのが相当であり、これと結論において同旨の原審の判断は正当として是認するに足り、原判決に所論の違法があるということはできない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝 和田誠一)

上告代理人村井禄楼、同清木尚芳の上告理由

第一点 原判決は九丁表にて

次いで被控訴人の右瑕疵による損害賠償責任の点を考えるに、

1 被控訴人が本件造船請負契約において、また昭和三八年八月二〇日の覚書をもつて、それぞれ本船の瑕疵修補につき、控訴人とその主張の各文言による約定をしたことは当事者間に争いがないところ、控訴人は、右の各約定によつて被控訴人が民法六三四条一、二項に定める請負人の瑕疵担保責任とは別個に前記瑕疵を修補すべき債務を負担し、または少くとも前記瑕疵につき控訴人の要求する程度にまで修補をなすことを承諾し、その限度で右担保責任を加重する約定をしたかのごとく主張するが、右の各約定にかかる文言や先に引用した原判決理由第二項の2の(2)記載の被控訴人による前記各修補工事の経緯に照らすと、右の各約定が控訴人の右主張の趣旨で結ばれたとみるは困難であつて、むしろそれは本船に瑕疵があつた場合に被控訴人に右担保責任を生ずる旨を確認し、あるいはまた被控訴人が右の各修補工事をしたことをもつて直ちにその担保責任が免除されるものではなく、瑕疵が残存するときはなおその責に任ずる旨を確認したにとどまるものというべきである。

と判示するも、請負人の瑕疵担保責任について成法がない場合にはわざわざ誓約書を差出す必要があるが、その責任については民法第六三四条第一、二項に明文があり――その明文をわざわざ更に確認する筈はない。被上告会社には帝大出の技術者が揃つており、単なるたたき揚げの町工場の職工が主脳者ならば法律に精通しないためこんな判りきつたことに証文を出すかもしれないが、主脳者の頭脳が違う。

又、修理工事をしたからとて当然免責になる訳がない、振動、騒音が止まらなければどこまでも責任が残る。「修理工事をしたからとて免責にはならぬ――それを確認するためわざわざ証文を入れた」という考え方は無理がある。

振動、騒音を発する根元は物的証拠として残存しておるから――もはや修理工事済みだから責任は免除されたと被上告人が抗争する訳がない。

その抗争をしないためにわざわざ証文を入れたものと解釈するのは世の中の経験則に反するこじつけにすぎない。牽強付会である。

誓約書には

1 今回の工事に関しては充分なる監督の下に親切丁寧な工事を行い船主の御満足を得られる様にする。

2 同船の今回工事終了後再度振動を測定し振動の止まらぬ場合は船主の御満足の得られるよう善処する。

なる言葉が使つてある。

「船主の御満足」という言葉が二ケ所使つてある。

「満足」というのは船主(注文者)の主観である。

それであるから、注文者の要求する程度にまで修補をする、その限度まで担保責任加重の約定をしたのであつた。被上告人主脳者(有識階級の集合)(大会社日立造船所の天下りを含めて)の出した誓約書であるから(書いた者の頭脳を考量すべき)その言葉通りに解釈すべきである。

技術者である主脳部は、自社の設計の誤りにつき大変な責任を感じたからこそこんな丁寧な誓約書を差入れたのである。原判決は、その差入れた人の頭脳の程度を無視し、単にたたきあげ職工上りの町工場の主人と同様な考え方をしておるらしい。

即ち、原判決は証書の解釈をするにつき、作成者の頭脳の程度を考量することなく経験則に反した違法がある。破棄さるべきである。

第二点 原判決は一三丁裏にて

(三) しかしながら第二項記載の各事実とその認定に供した各証拠ならびに前記乙第七号証を総合すると、本船が所期の性能を発揮することを妨げる事由としては、ひとり本件造船請負契約上の瑕疵による前記振動のみではなく、その瑕疵によるものとは認め難い、主発動機を分速二八〇回転以上にあげた場合に生ずる相当強度の騒音があること、そしてまたたとえ本船につき振動防止のための前記改造工事がなされたとしても、右騒音までが前記会話や無線電話連絡に支障を生じない程度にまで軽減されるものではないことをそれぞれ認めることができ、これらの認定を覆えすに足る証拠はない。(中略)

一五丁裏にて

(五) そして右の(一)ないし(四)に認定、説示したところからすれば、本件造船請負契約上の前記瑕疵は、本船の所期の性能の発揮を妨げる唯一の原因ではなく、その障害原因としては相対的なものであり、またたとえ本船につき前記改造工事がなされても他の障害原因たる騒音までが軽減されるとはいえず、

と判示する。

その瑕疵によるものとは認め難い、主発動を分速二八〇回転以上にあげた場合に生ずる相当強度の騒音があること、そして

なる文章において「認め難い」の次に在る「、」読点は無きものとして読まぬと意味が判らなくなるので無きものとして扱うことにする。

その謂わんとするところは、「本件騒音は振動に附随して当然発生するものではなく、設計誤りに因りて生ずる振動とは無関係に、発動機船固有の(元来の)当然の騒音であるから、振動防止改造工事をしても騒音のみは残る――発生しておる騒音は契約上の瑕疵では無い」との意味である。

しかし乍ら、「振動防止改造工事をしても騒音を解消することは出来ない」という証拠はどこにもない。虚偽の証拠による事実の認定、採証法則違背、直ちに破棄されたい。

大変な誤りを犯しておる。

乙第二十四号証誓約書にも単に「振動の止まらぬ場合」とあるは、振動が止まればそれに当然に附随して起る騒音も止まるのであるから「主から当然に従が伴う」のであるから「主」のみを書いておる。これは海事常識である。

乙第五号証の一(鑑定申出書)の鑑定事項第一にも「振動並にこれに随伴する騒音の程度如何」、第二に「前項振動及び騒音発生の原因如何」、第四、第五、第六、第七、にも「振動及び騒音」とあり、これに対する答である五人の鑑定書たる甲第四号証の一、二、三、四、五も亦、両者不可分として振動に随伴する騒音として扱つておる。「騒音は発動機船では当然である。振動とは別個である。振動防止改造工事をしても本件発生騒音は防止できぬ」と思わせる文章はどこにもない。

乙第四号証の四及五、(鑑定書)を見れば東田、西部両鑑定人は振動のみならず騒音をも計測しており、乙第四号証の二及三(鑑定書)を見れば松浦、南、向原三鑑定人は騒音の計測をせず振動のみの測定をしておる。従つて騒音の専門家は東田、西部両鑑定人である。

両鑑定人は、乙第四号証の四(調書報告)において(四一頁)

したがつて、本船運航中に発生する騒音の強さは、聴器にたいする直接的障害とともに、精神身体医学的異常所見、心理的影響も考えられる騒音レベルであり、乗組員の保健上、防音対策を講ずる必要があり、少なくとも騒音レベルの増加をまねく条件は極力除去することがのぞましいといえる。

乙第四号証の一(鑑定書)二三頁にて

高水準の騒音の発生している場合は、数ホンの増加も、その影響は軽視できない。神経感覚的、心理的影響も問題であるが、永久性聴力損失の進行度に関連して、山本氏のM4作業者とM5作業者の事例を比較検討すると、M493ホンとM599ホン、すなわち6ホンの相異によつて、会話音域における聴力損失は、勤続2年で4db、勤続7年で10dbのひらきがあり、この数ホンの上昇により、日常会話了解に支障をきたす症度になる可能性をつよめている。

したがつてすでに、高水準の騒音の発生している場合における騒音の増加は、それが数ホンであつても、その影響は無視できず防音、防振対策がのぞましいと考える。

とて防振が即ち防音。両者不可分関係を示しておる。

騒音専門外の松浦鑑定人は、乙第四号証の一(鑑定書)九頁において

次に本船の船内各部における騒音の原因は資料3に述べられているように機関室内の主機を始めとする諸機械類の発生する機械室であつて、これが騒音の殆んど大部分を占めている。振動に随伴する騒音は第1項において述べたように全体の騒音に比べると小さいものであるか、主機回転数280rpm以上のときに増大する本船の上下振動のため、各室の扉、窓、机その他の家具類等のがたつきおよび機関室内床面に敷きつめられた鉄板の躍りによる騒音がその主なものであろう。(松浦義一)

とて「振動に随伴する騒音」なる言葉を用い振動が無くなれば騒音も無くなることを明示しておる。

又、同鑑定人は同鑑定書六頁にて

本船の振動と騒音の関係すなわち振動に随伴する騒音という点についてはその判定が極めて困難であつて、正確な結論は出し難い。何となれば資料3にも述べられているように、計測された騒音の大部分は機関室内で発生する機械音によるものであり、計測値より振動のみによる騒音を分離することができないからである。しかしながら全速運転時の騒音レベルの計測値が本船の前進時に最も小さく、後進時はそれより1〜3ホン高く、旋回時は2〜4ホン高くなつており、一方振動の大きさの程度がやはり前進時が最も小さく、後進、旋回の順で大きくなつていることから、上記の騒音レベルの差は振動によるものと考えられる。これらの数値が極めて小さいことは振動に随伴する騒音の大きさというものは全体の騒音に比べると小さいものであるということを示しており、問題にならないと思われるが、時々現われる共鳴現象のような異様な「ガタ音」は乗組員に対しては心理的には問題となるであろう。

とて、「振動と騒音の関係すなわち振動に随伴する騒音」「振動に随伴する騒音の大きさ」「しかしながら……中略……上記の騒音レベルの差は振動によるものと考えられる」と明示されておる。

右述の原判決中の採証法則違背或は審理不尽は判決に影響する重大事項であるから破棄さるべきである。

第三点 原判決は法律の解釈を誤つておる法令違背がある。原判決は一三丁表にて

この振動発生原因を本船の所期の性能を劣化させることなく解消するには、推進器翼先端と船尾外枝との間隙を広くとるため、推進器周辺の船尾部の形状を変更することを要し、これには本船舶体を機関室中央付近(全長の後方から約五分の二の位置にあるフレーム二〇番の箇所。)で横切断してその後部船体を取除き、これに代えて別に後部船体を新造し、これと旧前部船体とを熔接結合する方法が最も容易かつ確実である(後部船体を切断除去することなくそのまま活用する方法は、船尾部変形のためフレーム曲げ加工が確実に行なえないため実施困難である。)が、この方法で本船を改造するとなると、金二四四〇万円余の費用と約七〇日間の工期を要することが認められ、この認定に反する証拠はない。

と判示しておき乍ら、何故に金二四四〇万円余の改造工事費用及び七〇日間工事中の滞船損害の請求を棄却したのであるか。

原判決は、五丁裏において

(五) そして右の(一)ないし(四)に認定、説示したところからすれば、本件造船請負契約上の前記瑕疵は、本船の所期の性能の発揮を妨げる唯一の原因ではなく、その障害原因としては相対的なものであり、またたとえ本船につき前記改造工事がなされても他の障害原因たる騒音までが軽減されるとはいえず、しかも控訴人は右瑕疵の残存するまま本船を運航、稼働させて他船とほぼ同程度の収益をあげてきたことからして、その改造工事により得られる利益はそれに要する費用や工事中運航できないことによる不利益と比較して著しく下まわるものと予想され、さらに控訴人は、本船をすでに他に売渡しておりもはや自らの負担で改造工事をなすことは考えられず、したがつて控訴人主張の右改造工事に要する費用やその工期中の滞船料は、控訴人に現実に先じた不利益ではなく、いわば幻の出費および収入減というべく、なお右売渡における売買代金も右瑕疵の故に格別に低廉になつたともいえないから、これらを考え合わせると右工事費や滞船料をもつて右瑕疵の修補に代る損害とみなすことは到底困難である。

という。即ち、原判決は、改造工事をしても振動は直るけれども騒音は(船体固有のもので)直らないという誤つた事実認定を前提として改造工事の必要を認めず従つて改造費用の請求を棄却しておるのみでなく、民法第六三四条第二項填補賠償の解釈を誤つておる。

この点については、上告人は一審において第九準備書面に参考書写を添付して説明したのであつた。念のため補足説明する。

注文者上告人は、請負者被上告人に対し修補請求し、被上告人は修補を試みたが徹底的に旋行せず――修補義務を履行しなかつたので、これに代る填補請求をしておるのである。

他の造船所をして修補せしめる費用及びその工事中休航損害を求めるものである。金銭賠償主義の我民法においてはこれより他にはない。(同準備書面添付参考書第二〇号、第一一号、第二十五号、第十八号、第十九号、第二十七号参照)

参考書第二十二号一二十五頁において

一四 理由書――本条第二項ハ主トシテ実際ノ便宜ニ基ツキ多数ノ立法例ニ従ツテ之ヲ設ケタリ而シテ請負人カ瑕疵ノ修補ヲ拒ムトキハ注文者ハ他ニテ之ヲ修補セシメ其費用ヲ請求スルコトヲ得ルハ債務履行ノ通則ニ依リ自ラ明白ナリトス

一六 岡松博士――請負人カ瑕疵ノ修補ヲ為ササルトキハ注文者ハ第三者ヲシテ之ヲ修補セシメ其費用ヲ請求スルコトヲ得ルハ四一四二項ノ規定ニ依リ明瞭ニシテ別ニ規定ヲ要セスト雖モ……

とある。被上告人が出費ヲ惜みて修補の履行をなさない場合、証拠保全による公正なる鑑定により、第三者が代りて修補する費用を算出しこれを填補賠償として訴求するのは当然の法理である。上告人は、資金難のため現実に第三者をして代りて修補をなさしめなかつたけれども、それは恰も、目的物たる船舶が深い海底に沈没し引揚不能の場合に、請負人の不履行に因り発生した填補賠償請求に消長を来さないと同様に、一旦発生した債権は消長を来すものでない。例えば衝突船舶の被害者が貧乏船主であるため復旧修理を施行することが出来ず、その儘に放置し、公正なる鑑定による修理費及び工事に必要なる休航期間についての滞船損害の損害賠償請求が可能、適法であると同様である。

一旦填補賠償請求権が発生した後、修補目的の船舶が喪失しようが健在しようがそんなことには請求権は無関係である。従つて原判決が前記のとおり

しかも控訴人は右瑕疵の残存するまま、本船を運航、稼働させて他船とほぼ同程度の収益をあげてきたことからして、その改造工事により得られる利益はそれに要する費用や工事中運航できないことによる不利益と比較して著しく下まわるものと予想され……現実に先じた不利益ではなく……幻の出費および収入減……

とて、請負人の修補義務不履行による填補賠償請求権発生后に、修繕目的船舶が如何なる稼働利益を挙げたか、挙げなかつたか、瑕疵があるため幾何の不利益を被つたのでそれを請負人に請求するとかしないとか、修補目的船舶を他へ幾何の価額に売つたので結局注文人は差引き損害は無かつたとか有つたとか、現実に改造工事をしておらないのに改造工事費用及び休航(工事中)損害を請求するのは夢幻であると論ずるが如きは填補賠償請求――民法第六三四条第二項「注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代へ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得」――の法律解釈を誤つたものである。

尚、原判決は、

またたとえ本船につき前記改造工事がなされても他の障害原因たる騒音までが軽減されるとはいえず

とて、改造工事をしても騒音軽減にはならぬということ(この事実認定が正しいと仮定しても)振動防止工事を容認しない理由としておるが、そんなことは理由にならぬ。

主たる瑕疵たる振動は、従たる瑕疵たる騒音に比べたならば到底日を同じく語ることが出来ぬ重大缺陥がある。

即ち、南、向原両鑑定人は、乙第四号証の

一(鑑定書)三二頁にて

資料2、第26図(P79)および第27図(P80)に示した振動振巾の比較図は本項と第5項との結果を示したものであり、吃水の影響を知ることができる。これより吃水を浅くすればする程各機器類の振動振巾は増々大きくなることが明らかとなる。

各機器類の振動振巾が、このように増大された振動状態においては機器類は、その機能および強度上の影響を受けることが予想される。その程度は機器の種類、設計条件、据付状態等によることが多く、ここに具体的に指摘することは困難であるが、鑑定中この状態でしばしば発生した配電盤上の主電路自動回路遮断器の開放(鑑定中は手で押え、開放を防いだ)、および本船就航後度々発生している主機燃料噴射管の破裂(抗続部ろう付箇所における亀裂で鑑定中にも1件発生)や通風機風路取付ボルトの折損脱落等の事実は、この種の振動状態における運航条件の採用を困難とするよい事例であり、現状では許容できない振動状態であると認められる。

と指摘しておられる。主機燃料噴射管破裂は機関室内火炎発生原因となる。

振動防止対策改造工事費を容認しない理由が判明しない。

即ち、原判決は、法律の解釈を誤つたもの、理由不備或は審理不尽の違法があり、この違法は判決の結論に直接影響を及ぼすものであるから破棄を求める。

第二点の補充

南、向原鑑定人は、乙第四号証の一(鑑定書)四六頁にて

(2) 振動の増大によつて附随的に起る騒音の過大、しばしば発生する主電路自動回路遮断器の開放、主機燃料噴射管の破裂および送風機路取付ボルトの折損脱落等、操船関係者の不安を招く要因か、振動が飛躍的に増大する傾向にある定格値附近のピッチおよび回転数または浅吃水における運転を困難とした。

とて、振動と騒音との不可分関係を明記しておる。

第四点 原判決は、一九丁表以下にて

(三) ところで前記乙第四号証の三、成立に争いのない同第二五号証、三〇号証、原審証人佐藤丈夫の証言により成立の真正を認める同第四一号証の一ないし三および五、原審証人谷口乙松、同池原茂、同浜中為行の各証言によると、控訴人は、被控訴人による第三次修補工事がなされる数日前の昭和三八年九月六日に本船を運航中その左舷推進器を他船の錨鎖に接触させて推進器翼先端を破損したため、同月七日から九日にかけて応急修理をなしたが、第三次修補工事中に右事故を知つた被控訴人は、工事終了後控訴人に対し、右工事によつてもなお生ずる本船の前記振動が右推進器翼の破損に起因することもあり得るとの理由により、その完全な修理がされない限り以後の修補に応じない旨を申し入れ、その後控訴人は右推進器翼の取替工事を行なつたことがそれぞれ明らかではあるが、しかし右の各証拠に照らすと、右推進器具の損傷の程度が右取替工事を要しないほどに軽微であつたとは断定し難く、したがつてその取替工事が控訴人にとつて不要、無益であつたともいえないから、控訴人主張の右取替工事費用である新推進器翼取付代金から旧推進器翼売却代金を控除した差額金とその取替のための入渠料あるいはその取替工事中の滞船料は、いずれも本船の前記瑕疵による損害とみることは困難である。

と判示するも、公正なる乙第四号証の一(鑑定書)四一頁乃至四三頁において、南、向原両鑑定人は、「推進器翼損傷は新規取替を要しない軽微であつたこと及び錨鎖接触によつては、推進軸の曲りやプロペラのバランシング及工作精度に基く本船の振動を発生せしめたものでない」事実が判明する。即ち、被上告人は、造船の専門家であるから、右事実を知つており乍ら、故意に難題を吹つかけて、上告人をして不必要な推進器翼新規取替を強要したものであり、金一二〇万円余の損害を支払う義務がある。

原判決は重要なる公正な証拠に対する判断遺脱或は審理不尽の違法がある。

第五点 原判決は、六丁表にて

1 本船の前記各修補工事後の騒音の程度は、その吃水状態や運転状態(前進、後退あるいは旋回。)にかかわりなく主発動機が分速二八〇回転を超えると、乗組員相互の会話や離接岸作業のための無線電話連絡に支障を生ずるほどの強度のものとなるけれども、右騒音の大部分は、控訴人の提供にかかる主発動機からの機械音であつて、これが被控訴人による本船の設計、旋工の不備にもとづくものであるとはいい難く、なお後記振動に起因する騒音は些少であるうえ、右会話や無線連絡に支障を及ぼす性質のものではないとみられるので、その騒音の発生をもつて、本件造船請負契約上の瑕疵と断定することは困難である。

とて、「右騒音の大部分は、控訴人提供にかかる主発動機等からの機械音であつて、これが被控訴人による本船の設計、旋工の不備にもとづくものであるとはいい難く」と謂うも、最も科学的に検査、研究、しかも公正なる五鑑定人作成甲第四号証一、二、三、四、五のどこを見ても、上告理由第二点において説明したとおり、本件騒音は船体振動に当然随伴するのであつて、主発動機等によりて発生するものでないことが判然としておる。振動は被上告人の設計ミスに因るものであるから、騒音についても契約上の瑕疵と謂うの他はない。即ち原判決は虚無の証拠による事実認定、或は審理不尽がある。到底破棄は免れない。

上告代理人村井禄楼、同清木尚芳の昭和五四年一月二六日付理由書記載の上告理由<省略>

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